Global Investment Finance Planについての概要

論文要旨

近年、アベノミクスによって、日銀による実質的な買いオペレーションが行われており、出口戦略に於ける国債の暴落リスクなど、アベノミクスに於ける財政リスクを危惧する声が多方面で高まっている。本論文では、アベノミクスはどのような政策であるかを述べた後に、アベノミクスによって財政運営または金融市場に於いて、どのようなリスクを齎すのか、そして、どのようにして現状のアベノミクスの路線を維持しつつ、財政破綻のリスクを低減していくべきなのか?をGIFP(Global Investment Finance Plan, 国際投資資金調達計画)という概念に基づいて説明する。

また今回、本論文の著者が独自に考案、策定したGIFPの概要を説明するとともに、GIFPによって、どのようにして国債の暴落リスクを低減するのか、そして、GIFPを活用した「国庫債券給付金」という概念についても触れていく。

目次

Ⅰ.はじめに

Ⅱ.アベノミクスによる財政リスク

1.基礎的財政収支という指標

2.「財政健全化の意義」と「アベノミクスに於ける財政へのリスク」

Ⅲ.GIFP(Global Investment Finance Plan)とは

1.プランの概要

2.国庫債券給付金について

Ⅳ.まとめ

Ⅰ.はじめに

2012年12月26日に第二次安倍内閣が組閣されて以降、同内閣は通称「アベノミクス」と呼ばれる経済政策を掲げてきた。アベノミクスとは、「・大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略」(Wikipediaより引用)の三本の矢と呼ばれる経済成長の誘因となる政策を包括した経済政策である。株高・円安の状況から企業の業績が改善するという見込みのもとに、新たな資金需要を創出し、実際に実体経済が活性化することによって、賃上げを行い、消費が活性化することで、経済の好循環が生まれるというものである。(図1)一連の政策は世の中の景況感への悪い思い込み(デフレマインド)を払拭し、経済全体が「景気は良くなるであろう」という期待(インフレマインド)を形成することによって、実体経済への好循環を生み出そうとしている。


図1.アベノミクスによって期待される「経済の好循環」

現状として、アベノミクスの成否はどうであるかを考えた際に一部のうるう年効果による中間速報値を除けば、年に実質2%のインフレターゲットという目標数値は未だに達成されておらず、GDPに関してはマイナス成長のデータさえある。また、近年では円高、株安の傾向も見られ、アベノミクスの前提にある「株高・円安による実体経済の加速化」という論理は破綻していると見られる動きさえもある。

しかし、アベノミクスという経済政策では成功した際のリスクも大きく、むしろそちらの方が金融市場の混乱を高め、財政破綻のリスクも高めることとなり、非常にリスキーな試みであることが窺えるのだ。次章では、「アベノミクスによる財政リスク」について述べたいと思う。

Ⅱ.アベノミクスによる財政リスク

1.基礎的財政収支という指標

先ず、表題にある財政リスクについて、財政への基本的な理解を深めるために、日本の国家財政がどのような状況にあるのかを照らし合わせながら、説明していく。

先ず、以下の国家財政の歳出、歳入に於けるバランスシートの一例を見て欲しい。(図2)


図2.「基礎的財政収支とは何か」

歳出は社会保障や公共事業などの一般歳出はもちろんであるが、注目して欲しいのは対応する歳入の方である。税金による税収と国債などによる借金などによって歳入は賄われているが、ここでは「基礎的財政収支は23兆円の赤字」と表記されている。

基礎的財政収支というのは、財政に於ける一つの重要なキーワードであり、平易に説明すれば、「一般歳出(社会保障や公共事業費など)をどれだけ税収で賄えているのかという指標」のことである。

現在、この基礎的財政収支は赤字となっており、赤字分を赤字国債という借金で賄っている。当初、政府ではこれを「2020年までに黒字化する」という財政健全化目標を掲げ、消費増税の10%引き上げを予定通り行うとしていた。

しかしながら、昨今、安倍総理は記者会見の場で「消費税10%への引き上げを2017年4月から2019年10月までの二年半の間、再延期する」という意思を表明した。

これによって、基礎的財政収支にどのような影響を与えるのか?アベノミクスが2020年までに於いて、「年に実質2%の物価上昇」を成功した際の基礎的財政収支の赤字幅は6.5兆円と試算されている。これが何を意味するのかと言えば、仮にアベノミクスが成功したとしても、2020年までの基礎的財政収支は赤字となり、財政健全化目標を達成できない。また、アベノミクスによる経済成長というものは必ず持続的に続くとは限らず、短期的である可能性もある為に、物価上昇による自然な税収増へ過度に期待できないということでもある。

では、この「財政健全化目標」は何のために必要であるのか、そして、具体的にアベノミクスによって想定される財政リスクについても述べながら、説明していきたい。

2.「財政健全化の意義」と「アベノミクスに於ける財政へのリスク」

財政健全化は何の為に必要であるのか?先ず、所謂、日本国内に於ける国の借金(一般政府総債務)の総額はGDPの約2倍以上とされている。この借金の返済に対して、政府が国民から徴収する税金では利払い費や借金返済に充てる費用を賄えておらず、国は新たに一連の費用に充てる為の資金調達を金融機関の預貯金を原資とした赤字国債によって賄っている。

以下の図は、国の借金(一般政府総債務)と原資となる預貯金などの総額(家計金融純資産)を表したものである。(図3、次ページ)また、日本国内の家計に於ける金融資産は預貯金が大半を占めるため、この家計金融純資産の値は預貯金の総額と見做す。

この図式を見ると、互いの数値は切迫しているように見えるのがお分かりだろう。家計金融純資産の伸びが衰えている要因として、近年は少子高齢社会の進展により、高齢者が生活の為に預貯金を取り崩していることと、ワーキングプアを始めとした非正規雇用と呼ばれる低所得者層の増加により、貯蓄率が減少していることが背景として挙げられる。

これは何を意味するのか?一見、日銀の買いオペレーションとは無関係に見えるが、実は深い関連性がある。現在、日銀が市中の金融機関から国債を買い入れているが、その為に国債の金利はマイナスとなっている。これは、国債への需要が高まることによって、金利が暴落しているということであるが、(国債への需要と金利の上昇はトレードオフの関係にある)長期金利(利払い)がマイナスとなれば、金融機関が国債を保有する動機が低下する。

そして、ここからが重要であるが、アベノミクスが成功した時に、日銀が保有している大量の国債を売りに出した際に国債は暴落し、長期金利が暴騰するということである。

どういうことかと言えば、一般政府総債務と家計金融純資産の値は拮抗しているために新たに借金をすることは不可能に近い。そして、現在では長期金利がマイナスになっている為に、金融機関が国債を保有する動機は低下しており、三菱東京UFJ銀行の反発を始めとした、金融機関の「国債離れ」が深刻化している。

仮にアベノミクスが成功し、日銀が保有する国債を売りに出した際に買い手が見つかる保証はどこにもない。すなわち、この場合に於いては、国債への需要は一気に減退し、(暴落し)長期金利は一気に跳ね上がることとなる。そうすれば、政府は国債の利払いを行うことが難しくなるために、デフォルト(債務不履行)の状態となり、国の信用力は失墜する。

信用力がなくなるということは何を意味するのか、と言えば、新たに国が借金をして資金調達をすることが不可能となり、全ての歳出を税収によって賄うしかなくなる。それによって、社会資本の整備は脆弱となり、社会保険制度に於ける年金積立金を切り詰めることとなり、国家運営が長期に亙り、滞る可能性が示唆される。


図3.一般政府総債務と家計金融純資産の値の比較(グラフ)

これを防ぐ為には、現実的な政策のプランニングの策定と財源の確保が必要になり、パブリックファイナンスの安全性向上の為に、消費増税を行い、財政健全化は不可避的な状況にあるが、既定路線で行ったとしても10%への引き上げは2019年10月となる見込みの為に、現段階では不可能に近い。

では、どのように既定路線と折り合いをつけて、国債の暴落リスクなどの財政リスクを低減させていくべきか?それが、次章で述べるGIFP(Global Investment Finance Plan, 国際投資資金調達計画)というプランである。

Ⅲ.GIFP(Global Investment Finance Plan)とは

1.プランの概要

GIFPはGlobal Investment Finance Planの頭文字を取った略称であり、当該プランの概要は、「日銀の買いオペによって生じた余剰資金を元手に、開放的な資金調達の窓口として、政府ファンドを設立し、国際的に投融資を行う。また、主な投融資の対象として、政府が法人を設立し、同社へと投融資を行いつつ、同社の株式を保有する。この株式への配当と投資差益を国債の利払い費へと活用する」というものだ。

主に政府が設立する法人が手掛ける事業として、発展途上国のインフラ整備や国内に於いてはアベノミクスの成長戦略で掲げるロボティクスなどのハイテク産業なども官民一体となって、同法人への設立の際に出資を行い、当該政府ファンドを資金調達の窓口とする。日銀の買いオペによって生じた余剰資金は数百兆円規模にもなり、市場へとこの潤沢な資金を投入することで、投資の活発化にも繋がり、もしくは巨大なマネープレイヤーとなることも出来る。成長可能性のある事業分野へと投融資を行うことが出来れば、多方面から資金を募ることができ、政府が事業者の株式を保有することで、値上がり差益を国家財政の歳入に活用することが可能となる。

そして、利払い費を工面することが出来れば、新たに国債を保有する動機が高まる。また、個人向け国債などを小口から応募すれば、低所得者から投資家に至るまで多方面から国債にて資産運用を行うようになり、低所得者には給付金の役割を果たし、社会保障の一環ともなる。最終的には、金融機関を通して多方面から個人向け国債などが購入されることで、国債の運用の原資を確保することが出来る。

以上から、出口戦略に於ける国債の暴落リスクを低減しようというものだ。

2.国庫債券給付金について

前項に於いて、低所得者への給付金としての役割について述べたが、将来的に個人による国債の取得を促進、または義務化を行うことを想定している。近い将来に於いては、消費増税は財政健全化に於いて、言うまでもなく必須事項ではあるが、家計の支出分にかかる消費税率と個人の貯蓄率の度合いに応じて、累進的に給付金の額を増やしていくことを考えている。これを「国庫債券給付金」とする。

これは、近年増加しつつある低所得者の貯蓄率を向上するインセンティブを確保する側面と、低所得者は増税の不利益を被る為に、「負の所得税」としての納税に対する還付金としての側面を考慮してのことである。

先ず、経済学に於いて、低所得者から消費は促されるという一定の事実が存在する。当論文でも述べているように、非正規雇用という低所得者層は年々増加しており、今現在は労働人口の4割を超える労働従事者がそれに該当するというデータがある。こういった人々は、概して貯蓄をすることは困難であり、最低限度の暮らしを営むことが精一杯である現状もあってか、労働意欲もそれほど高いとは言えず、現状を抜け出すことに諦めを感じている者も多い。

仮にこの格差を放置すれば、更に低所得者に該当する世帯が増え、個人消費は減退していき、ますます日本経済は衰退していく。そして、人口減少に歯止めはかからなくなってしまうだろう。そう考えた際に低所得者への支援はこういった形で、遠からず必要になると考える。

Ⅳ.まとめ

一連の経済政策については、「大きな政府」を前提にしている。仮に「小さな政府」のように政府が極力市場や国民生活に干渉せずに税負担を軽減した場合に、格差の拡大と同時に政府の財政運営に対して、一般政府総債務の軽減を行うことが出来なくなり、そのツケを遠い将来の世代に押し付けることとなる。現在、政府がやっていることは、そういったリスクをなるべく長く先延ばしをしているに過ぎないのだ。アベノミクスの出口戦略に於ける国債の暴落リスクは、あくまでここ数年の課題を述べているに過ぎず、またGIFPという概念も応急処置程度に過ぎない。今後、日本経済や財政を始めとした課題に対して、政策運営をする際には、長期的な目線を見据えて行うべきであろうと、私は考える。

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Misato